冷たい朝 (フィクション)

 

享年24歳 ある冬の冷たい朝 彼女は眠るように死んでいました お気に入りのタバコと真っ赤なヒールと たくさんのブランド物のバッグや服に埋もれて 眠るように死んでいました 綺麗に化粧した顔はいまにもにっこり笑い出しそうで いつもつけている真っ赤な口紅もつやつやしていました 何一つ欠けていないように見えました ただ一つ彼女の命だけが欠けていました 広くてふかふかのダブルベットで ベッドサイドには読みさしの本が伏せてあり たったさっきまで いきていた ようでした 

 

そして 誰も彼女の名前を思い出せませんでした

 

 

おやすみなさい

お腹の痛さに負ける

気づいたら3月が後半になっていた えっ?5.7.5を書いたのが2月なんて 一体どういうことなんだろう いつの間に時間はこんなにはやく過ぎるようになったんだろう 特に先月から今月は異様なほど早かった 次に自分がなにをするかを決め、そのために行動し、新しい家を探しに行き、来週にはもう引っ越しをする

恐ろしい  3月、ぎょっとするほどはやい というか毎日なにをするでもなく起きて顔を洗い、コーヒーを飲みながらぼーっとして、パンをかじり、寝癖をなんとかしつつ部屋にある途方もない量の私物をダンボールに突っ込む作業をしているだけなので、毎日を一生懸命生きているわけでもないのだけど  引っ越しの荷物をなんとか減らすために大好きなトワイライトやハリーポッターやソフィーキンセラの本、愛読していた雑誌の束などを泣く泣く置いていくことにした 恋人にはそんなにたくさん本を持って行って、いつ読んでたの?と聞かれたけどそういう問題ではない わたしにとって本は理想であって逃げ場であって居場所であって安らぎであるから、そこにあるというだけで充分なのだ 大好きな人たちとか大好きな生活とか大好きな世界とか、そういうわたしが安心できるものが近くにあるっていうことだけで、やっていけることもある 1人でバイトのあと駅から歩いて帰るとき島本理生の波打ち際の蛍を思い出したり、家でぼーっとしてるときに吉本ばななのムーンライトシャドウを思い出したり、そういう時間がわたしにはとてもとても大事で心地いい まあ今回は仕方がないけど時々実家に行って持ってこようと思う 

どうでもいいことだけど、タイトルの通り今お腹が痛くて本当に死にそう もし今死んだらこれが遺言に、、、、、、、??

 

 

ならないよねえ

 

 

恋する5.7.5(フィクション)

「会いたいな、会いたくないな、会いたいな」

 

う〜ん、完璧。完璧な5.7.5だ。会いたい気持ちと会いたくない気持ちが交錯する恋する女の子っぽさも出ている。これは入賞間違いなしかな!お〜いお茶のペットボトルに載っちゃうかも。ふふ。

 

冷蔵庫からキンキンに冷えたウィルキンソンのレモンを取り出して半分くらいまで一気に飲む。炭酸の小さな泡が喉に当たってビリビリする。くう〜〜っ!炭酸のジュースはあまり得意ではないけどウィルキンソンのレモンだけは大好き。前の彼氏にその話をしたら、は?コーラが一番に決まってんだろ、と笑われた。あたしはコーラ嫌いだけど、とは言わなかった。その1週間後に別れたし。

 

コーラのなんとなく薬っぽい味について考えていると、iPhoneが鳴った。ベッドに投げてあったそれに飛びつくと、表示されていたのは今いいかんじの会社の先輩。お疲れ!今日はクッキーありがとう。う〜ん、好き。無駄に絵文字とかがないところも好き。オトナってかんじ!あんまりすぐ返信するのも待ってたと思われるかもしれないからちょっと放置してから返そう。先週、仕事でちょっとしたミスをしてお局に小言を言われていたところに先輩がきてフォローしてくれた。神様かと思った。先輩はイケメンだし仕事ができるし人柄もいい。お局も先輩のことお気に入りだからすぐ解放してくれた。クッキーはそのお礼ってワケ。いや〜あのクッキー有名店ので並んでも買えないこと多いって聞いてたけど運良く買えてよかったな。

 

15分経ったところで先輩に返事を書く。お疲れ様です!こちらこそこの間はありがとうございました…ここってハートとか付けたほうがいいのかな。いやでもそれはちょっとやりすぎ?バカ女って思われたくないし、、

 

結局10分くらいかけて返信をした。あ〜〜!たのしい!どきどきする!誰かのことが気になってるときの心臓は、ひらがなのどきどきだと思う。デパートで新しい服や靴やバッグ、コスメを見ているときはカタカナのドキドキ。どきどきはゆっくりなにかが進んでいくかんじ。好きな気持ち。やわらくてふんわりしたものでいっぱいになる気がする。

 

会いたいな、会いたくないな、会いたいな

 

チラシの裏に走り書きした短歌が、突然すごく意味のあるものに見えてきた。明日、先輩にご飯行きましょうって誘ってみよっと。

 

 

プロポーズ(フィクション)

今朝も相変わらず電車は混んでいる。こんなに大勢の人間がこの街には存在していたのかと思うくらい、うんざりするほどの人間がこの小さな箱の中にぎっしり詰め込まれている。ドアに押し付けられながらぼんやりとそんなことばかりを考えていた。いつもより駅に早く着いたからって先頭になんか並ぶんじゃなかった。後ろのサラリーマンが吐く息が髪に当たっている気がしてさらに憂鬱な気持ちになった。会社に着く前にCHANELを吹きかけなきゃ。

 

 

 

昨日の夜、高校時代の友達から突然電話がかかってきた。特別仲がよかったわけじゃないけど、たまーに会ってお酒を飲んだりする。いつもいつも恋人がいる誰かのことを羨ましがって、いい出会いがないかと嘆いている。本当はそんなに羨ましがってもないくせに。わたしは彼女が不倫をしていることを知っている。直接聞いたわけじゃないけど、なんとなくわかる。嫌でもわかってしまう。口では羨ましいと言いながら、自分は他の人とは違う、危ない恋愛を楽しんでいることをどこか誇らしげに思っていることを。不倫相手が家賃を払ってくれている家に住み、不倫相手に買ってもらった服を着て、不倫相手に買ってもらった口紅を塗った唇で、婚約相手がいるわたしや、恋人がいる他の友達を羨ましいと言う。昨日もきっと似合わない真っ赤な唇でタバコを吸いながら適当にわたしを選んで電話をかけてきたんだろう。今日も彼女は不倫相手のいる会社に、同じように電車に揺られながら向かっているのだ。

 

 

 

先月、付き合って4年目になる恋人に結婚しようと言われた。別に断る理由もないし、これから先わたしに結婚しようと言ってくれる人が現れるとも限らないし、彼はいい人だし、気も合うし、即座にOKした。4年目になるし、記念日でも誕生日でもないのにやたら高そうなレストランに連れて行かれたのでなんとなくそうかな、とは思っていた。プロポーズって、もっと感激して泣いたりするもんかと思ってたけど、別にわたしは泣かなかったし、うん、いいよと答えて彼が用意してくれていた指輪と花束を受け取った。あれ?プロポーズってこんなもんか。と。むしろ彼のほうが緊張なのか嬉しさなのか、少し涙ぐんでいた。わたしは慌ててハンカチを渡したけど、あれ、ドラマとかだと逆じゃない?と心の中で思っていた。彼のことは好きだし、きっと結婚してもいい旦那さんになるんだと思う。わたしより2つ年上だけどたまに子供っぽくて、だけどきちんと人の目を見て話してくれる、優しい人だ。仕事もきちんとしているし、わたしの両親も彼を気に入っている。うん、ばっちり。完璧じゃん。だけど電車の中でちらっと自分の左手を見て、うーんわたし、結婚するのかあ。と、そんな風にしか思えなかった。

 

 

 

彼女なら、指輪と花束と自分たちの写真をInstagramにバンバンあげて、「プロポーズされました!!彼と一緒に生きていきます。本当に嬉しい!」とか泣いてる絵文字と共に投稿するんだろうな。いや、相手は不倫だからそれはないか。ぎゅうぎゅうに押されながらなんとか携帯を取り出し、彼女のInstagramのページを開く。最新の投稿は昨日の夜。「新しい子GET♡パケ買いしちゃったけど色味も私好みで最高〜!さっそく使っちゃお!明日から月曜だけど、みんな頑張ろうね!♡」という文章と共にデパコスの新作と、彼女の自撮り写真が載っていた。加工で目がバカみたいに大きくなっている。みんな頑張ろうねって誰に向かって言ってんだ。頑張ろうねってあんたは不倫相手のいる職場で仕事するふりしながら星座占いのページ見てるだけだろ。無性にイライラしてしまって小さく舌打ちをした。後ろのサラリーマンが申し訳なさそうに反対側を向いて、あーごめん、あなたじゃないんです、すみませんすみません。心の中で全力の土下座。何にこんなイライラしてるんだろう。わたしは不倫もしてないし、真面目に仕事をしているし、給料は彼女より多くもらってると思うし、恋人にプロポーズもされた。彼女のことを妬む要素なんてなにもない。

 

 

妬む?わたしは彼女のことを羨ましいと思っているのか。認めたくなかったけど、そうだと気づいた瞬間、何故だか泣きたくなった。月曜の朝、混雑した電車で泣いているOLなんてみっともないので必死に瞬きを繰り返す。なぜ、なぜ。なぜ、彼女が羨ましいんだろう。わたしは彼女が欲しいと言っているものを全部持ってる。だけど、だけど、彼女はきっと、わたしが欲しいと心の奥底で、気づかないようにしていたけれど欲しいものを、持っている。それがなんなのかはわからないけれど。わたしより彼女のほうが、ずっと毎日が楽しそうだ。InstagramにもTwitterにも載っていないところまで、きっと楽しくて仕方ない毎日を送っているんだろう。不倫相手のいる職場も、きっと楽しいに違いない。なぜ、なぜ、なぜ。

 

 

滲んだ視界に、左手の薬指にはめられた指輪が入り、ついにそれは、頬を伝って落ちていった。

 

 

 

 

 

ホテル暮らし(フィクション)

もしもーし!久しぶり!ねえいまどこにいるの?え?ホテル?家は?あの新しい家、帰ってないの?あー仕事か、そうだよね、なんか飛び回ってるもんねえ、そうだ、あたしがあげたあの黄色い掃除機、あんたの部屋にある?うん、あれ、あの誕生日にあげたやつ、え?引っ越し祝いだったっけ?あはは、ごめんごめん、誕生日は美顔器だったっけ、どうせあれも帰ってない部屋にあるんでしょ、も〜高かったんだからね〜!使わないなら貸してよ〜!

 

最近?うーん、まあぼちぼちってかんじ?別にフツーかなあ、特に変わったこともなく、相変わらず彼氏もなく。え?やだなあ出会いは求めに行ってるよお!なかなかいい人がいないだけー、え?いやそんなに理想高くないってば!優しくて〜ある程度お金持ちで〜顔はそこそこ良くて〜背はわたしより15センチは高くなきゃダメだし〜車もいいやつ持っててほしいし〜学歴もまああると嬉しいよねえ、あ、あと店員さんに上から目線じゃないひと!これめっちゃ大事じゃない?わかる?だよね〜!!もうなんか金持ってても背高くてもイケメンでも店で店員さんにタメ口とかありえないよね!!速攻ぶん殴って店員さんに謝らせたいわ〜〜エラそーにしてるおっさんとかも見てて腹立つしさあ、まあとにかくさ、なかなか条件に合う人がいないわけよ〜そんな難しいこと言ってるつもりないのに、はあもう婚活サイトにでも登録しよっかなあ

 

てかあんたはどうなの?あの彼氏とまだ続いてる?え〜すごい、いまどのくらい?2年半?え、やばめっちゃ長いじゃん!え〜結婚とか?すんの?うわ〜〜〜〜〜いいなあ!羨ましい!なんかさあ、みーちゃんもまゆこも結婚したり婚約したり、さやかも子供産んだりしてんじゃん?あんたも長く付き合ってる彼氏いるし〜あたしだけだよおなんにもないの〜、どんどんみんなに置いてかれてる気がして、、、え?まあそりゃまだ24だけど、24て来年25だよ?アラサーになるの!あたし安月給のOLよ?はやく結婚して引退したいよお、うん、まあね、仕事は普通に楽しいってかそこそこゆるいし、まあとりあえず毎月自由にできるお金はあるし、でもさあ、ハリがないの、生活に、あんたみたいに仕事バリバリやってる!ってワケでもないし、結婚もしてないし、子供もいないし、あたし一生このままなんじゃない?とか思っちゃって、そう、絶望的な気持ちになるワケよ、まあ明日にはDior行って新作受け取ってくるから生きてるってサイコー!ってなってんだろうけど!あはは!変わってないってなによお、あんただって相変わらずあのなんかよくわかんない石?あはは、ごめんごめんパワーストーン?だっけ?集めてんでしょ!え?いやあたしは石よりルージュにお金落としたいから!お互い様だよお、変わってないねえ

 

あ、あたしそろそろ出かけなきゃだった!ごめ〜んまた電話する、うん、うん、帰ってくるとき教えてよお、飲みいこ!!うん、ああ、美顔器ね!ありがと、覚えといて!あははは、やだ〜まだいけるって!24の女の子だもん!余裕だよお、うん、仕事頑張って、ありがと、お互いがんばろ!ほんと、うんまたすぐ、連絡する!ありがとね、うん、じゃあまた!うん!またね〜!!

 

 

 

 

 

 

 

さて、そろそろあたしを愛人にしてる上司が来るはず  この家もハイブランドのワンピースも新作の化粧品も、ぜーんぶ買ってもらった 君を1番愛している、とか言いながら、奥さんと別れる気なんて1ミリもないくせにねえ まだ長く残っているタバコを灰皿に押し付けて、先週買ってもらった新作のリップを塗る 次々とリップを買ってくれるけど、どうせ唇の色なんて見ないじゃない

 

 

 

仕事を探している

まあ、わたしはぶっちゃけ今なーんにもしてない なーんにも。ニートである いや働く意欲はあるからニートじゃないのかな 就活中

 

臨床実習の現場である病院内で過呼吸を起こしてぶっ倒れ、毎朝病院に行くことを考えただけで涙が溢れ、鏡に映った自分の顔を見ては泣き、そのまま学校に行かなくなり、辞めた

 

甘かったのかなあとも思う だけどまあどっちにしろあの仕事には就かないつもりだったから、仕事を決める時期が2年くらい早まっただけだと思えばそれはそれで別になんにも不服なことはない 辞めたことに対して後悔もない わたしがあそこで得られたものは初めてできたたった1人の親友だけだし、それで十分すぎるくらいだと思っている

 

だけど、今就活をしながら、というかネットで求人を探しまくってるだけ(あ、あと履歴書も1枚書いた)なんだけど、なんとなく一体自分はなんの仕事をしたいんだ、、、??と思ってしまう 一応やりたい仕事があって職探しをしてたんだけど、いろんな仕事が出てくるうちにデスクに座ってパソコン見てる仕事も悪くないのでは、、、?とか思ってきちゃって、一応好きなものに関わっていられるし、ていうか髪型服装自由ならまあまあいいんじゃない?とか。

でもなあ、給料がなあ、最初のほうやっていけるかなあ、とかさ、人間関係が、、とかさ いろいろ心配するところはあるけどまあなんとかなるっしょ!ダメなら次!転職!と思えば、ねえ。デスクに座ってパソコン見ながらついでにチョコバー食える仕事してえ〜〜〜〜〜なんなら足湯もついててくれ〜〜〜〜〜〜〜

そんな仕事ないけど。

 

 

 

 

まっダメなら転職だ!!とりあえず証明写真を撮って気になってるところに電話かけよ。

前の家の話

思えば、あの部屋が好きだった 1K四万三千円Wi-Fiオール電化築15?20?忘れちゃったけど、そんなかんじの。 あの狭くてものであふれている、わたしの城 わたしだけの城 今思えばあの部屋を愛していた 初めて一人暮らしした部屋 換気扇がありえないほど弱くてタバコを吸うときに全く役立たなかった お湯の温度調節ができなくて赤と青の蛇口をうまい具合に捻らなきゃならなかった どっちをどのくらいずつひねれば最高の温度になるか、引っ越すときにはもう完璧にわかっていた ボロいエアコン 湿気がひどい部屋で、除湿機を永遠にかけていた 二階の角部屋 狭くておまけみたいなベランダ 夏に出窓に腰掛けてお酒飲んだりしたな 

 

実家は居心地が悪くて1人になれなくて毎日シャワーを浴びながら静かに泣いている

飯を食ってても酒を飲んでても大声で歌ってても寒い中1人で歩いてても電車に長い時間揺られていても、どこか自分じゃないような気がする どこか他人事のような気がして ああ、きっと死んでしまうときはこんななのかな、とか思ったりする 全てに現実味がない

 

タバコを吸いに外に出てぼそぼそした雪がべしゃべしゃの地面に吸い込まれるのを見ていると叫び出したくなる はやくここを出なきゃ 何かを始めなきゃ 新しい城を見つけてはたらかなくちゃ クソつまんねえな お金を稼いで働いて 生きてると思いたい 生きるために いつか死ぬために